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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)8301号 判決 1975年10月29日

原告 宮城昭雄

被告 マルホ産業株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は別紙目録記載のプラスチツク製提手を製造し、譲渡し、譲渡のために展示してはならない。

2  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和四八年一一月六日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決

第二請求原因

一  実用新案権侵害

(一)  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。

考案の名称 プラスチツク提手

出願    昭和三九年一月二五日(実用新案登録願昭和三九年第四五一三号)

公告    昭和四一年七月二二日(実用新案出願公告昭和四一年第一五七〇九号)

登録    昭和四二年一月九日(第八一八九六七号)

実用新案登録請求の範囲

「把持部の両端に届曲せる紐掛部を連設したプラスチツク提手に於て、全体を薄肉にし把持部下側端に沿つて適宜幅の指掛部を突設し、把持部の上側端及び紐掛部の内周と外周に沿つて断面略円孤状の膨出部を設けると共に両紐掛部の外側を同一側方に僅か折曲げて稍傾斜せしめ且つ紐掛部の外側端部を細くして紐掛部の先端外方に斜め上方に向つて案内片を、又紐掛部の先端内方に斜め下方に向つて係止片を夫々突設したことを特徴とするプラスチツク提手。」

(二)  被告は、昭和四六年頃から別紙目録記載のプラスチツク製提手(以下「被告製品」という。)を製造し、販売し、販売のための展示をしている。

(三)  被告製品は、本件考案の構成要件をすべて具備しその作用効果も異ならないから、本件考案の技術的範囲に属する。

二  意匠権侵害

(一)  原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件登録意匠」という。)を有する。

意匠に係る物品 包装用さげ手

出願      昭和三九年一〇月五日(意匠登録願昭和三九年第二七四二八号)

登録      昭和四八年四月一四日(第三六五四三三号)

本件登録意匠  別添意匠図面記載のとおり。

(二)  本件登録意匠は、全体が肉薄に一体成形され、把持部は下向凹状のほぼ弓状をなし、該把持部の両端に上向釣針状の紐掛部を有し、把持部上側端及び紐掛部の内周と外周に沿つて断面ほぼ円孤状の膨出部を設け、前記把持部下側端に沿つて波状の指掛部を突設した形状をしている。しかるところ、被告製品における意匠は、本件登録意匠の特徴をすべて具備しており、その差異を見出し難いほど酷似しているから、本件登録意匠の範囲に属する。

三  原告の損害

被告は、被告製品が本件考案の技術的範囲及び本件登録意匠の範囲に属することを知りながらもしくは過失によつてこれを知らないで、原告の許諾を受けずに昭和四六年一月から昭和四八年一〇月までの三四箇月間、月平均一、一五四、〇〇〇箇(一箇当り約五・二グラムのものを合計六トン以上)総合計三九、二三六、〇〇〇箇を下らない数の被告製品を製造、販売した。そして、原告は、本件実用新案権及び本件意匠権について他に通常実施権を許諾し、実施料として製品一箇当り金一五銭の支払を受けており、その金額は本件考案及び本件登録意匠の実施に対し通常受けるべき適正なものであるから、被告の前記数量にのぼる無断実施行為により原告は金五、八八五、四〇〇円の実施料相当の得べかりし利益を失つた。

四  よつて、原告は、被告に対し、被告製品の製造、販売及び販売のための展示の禁止、並びに、前記損害額の内金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年一一月六日以降支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁

一  請求原因一については、(一)の事実は認め、(二)の事実のうち別紙目録の「両紐掛部(5)(5)′の外側部(6)(6)′は同一方向に向けてほんのわずかやや傾斜させる」との記載及び左側面図、右側面足並びにA――A線断面図において右記述に即応して(6)(6)′の部分がやや傾斜しているように図示されている点はいずれも否認するが、その余は認め(被告製品において、両紐掛部の外側部(6)(6)′は傾斜していない。)、(三)の主張は争う。

二  請求原因二については、(一)の事実は認めるが、(二)の主張は争う。

三  請求原因三の事実は、否認する。

第四証拠<省略>

理由

一  実用新案権侵害について

(一)  請求原因一の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

右争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は次の構成要件からなるものと認められる。

1  把持部の両端に屈曲した紐掛部を連設したプラスチツク提手であること、

2  右提手は、全体を薄肉にし、

(イ) 把持部下側端に沿つて適宜幅の指掛部を突設し、

(ロ) 把持部の上側端及び紐掛部の内周と外周に沿つて断面がほぼ円孤状の膨出部が設けてあること、

3(イ)  両紐掛部の外側を同一側方にわずか折曲げてやや傾斜させ、

(ロ) 紐掛部の外側端部を細くし、

(ハ)  紐掛部の先端外方に斜め上方に向つて案内片を、また紐掛部の先端内方に斜め下方に向つて係止片をそれぞれ突設してあること

(二)  しかして右構成要件3の(イ)の両紐掛部の外側を同一側方にわずか折曲げてやや傾斜させるとの点については、成立について争いのない甲第二号証(本件実用新案公報。以下「公報」という。)に、提手としては従来プラスチツク製品も見られるが、そのプラスチツク製品は、「紐懸部が針金の様に自在に屈曲しないから掛紐に引懸けるのに手間取り迅速を要する販売に際して甚だ煩らわしい等の欠点があつた。」(左欄二三行ないし二六行)として従来品であるプラスチツク製品の欠点を述べ、これを解決するために、「本考案に於ては両紐掛部の外側を同一側方に僅か折曲げて稍傾斜せしめ且つ紐掛部先端外方に斜上方に向つて案内片を突設した」(右欄一〇行ないし一二行)ので、本件考案にかかる提手は、「第4図に示す如く提手を斜めにして案内片の先を掛紐に当て把持部を矢印方向に引くのみで片手で簡易迅速に掛紐を紐掛部内に引掛けることができ、従来のように掛紐を持上げ乍ら紐掛部の片方宛押込む手間を必要と(しない)」(右欄一三行ないし一七行)との利点を有する旨の記載があることが認められる。

右事実によれば、本件考案の前記構成要件3の(イ)における両紐掛部の外側を同一側方にわずか折曲げてやや傾斜させるとは、提手を斜めにして案内片(7)の先を掛紐に当て、把持部(1)を公報等四図矢印方向に引くのみで、片手ででも簡易迅速に掛紐を紐掛部内に引掛けることができるように、両紐掛部の外側が同一側方に折曲げられて傾斜させられていることをいうものであることは明らかである。

(三)  被告が、昭和四六年頃からプラスチツク製提手を製造し販売していることは、当事者間に争いがない。原告は、右提手は別紙目録記載のとおりのものであると主張するのに対し、被告は右目録中の「両紐掛部(5)(5)′外側部(6)(6)′は同一方向に向けてほんのわずかやや傾斜させる」との記載及び左側面図、右側面図並びにA―A断面図において右記述に即応して(6)(6)′の部分がやや傾斜しているように図示されている点を否認する。しかしながら仮に、被告が製造販売する提手が別紙目録のとおりのものであるとしても、右提手の両紐掛部の外側の傾斜は、提手を斜めにして案内片(7)の先を掛紐に当て、把持部を公報第四図の矢印方向に引いただけで、片手ででも簡易迅速に掛紐を紐掛部内に引掛けることができるような程度のものであるとは到底認めることはできない。被告の製品であることについて当事者間に争いのない検乙第一号証並びに名古屋地方裁判所一宮支部が施行した証拠保全手続において採取された被告の製品をみても、右の点には変りがない。そうすると、被告製品は、本件考案の前記3の(イ)の要件を充足しないものというべきである。

(四)  そうすると、被告製品は、その余の点を判断するまでもなく本件考案の技術的範囲に属しない。従つて、被告製品の製造販売が本件実用新案権を侵害することを前提にした、原告の請求は理由がない。

二  意匠権侵害について

(一)  請求原因二の(一)は当事者間に争いがない。

(二)  成立について争いがない甲第四号証(本件意匠登録証)によれば、本件登録意匠の特徴は、次のように認められる。

(1)  意匠にかかる物品は、把持部の両端に紐掛部を連設した包装用提手であつて、全体は、一体の肉薄で周縁が膨出している。

(2)  全体は、下向凹のほぼ弓状をなし、把持部の上側端は孤状をなして紐掛部に続き、把持部の上側端縁の膨出部は断面がほぼ円孤状で下側端縁に沿つて上側端縁の膨出部よりも幅広でその断面の下面が半円孤状、上面が水平な半円状で、正面からみて波形をした指掛部がある。

(3)  紐掛部は、上向きの釣針状をなしており、中央部のU字状の屈曲部から外側に向つて幅狭となり、先端では外方に斜め上方に向かう案内片及び内方に斜め下方に向かう係止片が突出しているので、その先端部において「イ」(右側)あるいは「逆イ()」(左側)の字状としており、紐掛部の内周及び外周には把持部の上側端縁と同じような膨出部がある。なお紐掛部屈曲部内方の係止片と他の内方端とは接触せず、離れている。

(三)  別紙目録の記載のうち、当事者間に争いのない部分の表示並びに前掲検乙第一号証によれば、被告の製品の意匠は、次のようであると認められる。

(1)′ 把持部の両端に紐掛部が連設され、全体は一体の肉薄であり、周縁が膨出している。

(2)′ 全体部は、下向凹状のほぼ弓状をなし、把持部の上側端はその中央部からある程度の長さにわたつて水平であり、水平端からゆるやかな曲線をなして紐掛部に続いており、把持部の上側端縁の膨出部は断面が上面はほぼ円孤状をなす曲線であるが下面はほぼ水平であり、把持部の下側端縁に沿つて上側端縁の膨出部よりも幅広でその断面の上下面ともほぼ水平な、正面からみて波形をした指掛部がある。

(3)′ 紐掛部の先端は外方斜めに上向いた鉤状をしている。すなわち、紐掛部は把持部から幅を漸次狭ばめながら下り、U字状の屈曲部でやや幅を拡げた後上向きに転じ、紐掛部の内周及び外周には把持部の上側端縁と同じような膨出部があり、屈曲部の下端には膨出部と同じ幅で、三本の線条が付されている。なお屈曲部内方の係止片と他の内方端とは接触しており、屈曲部下端近くにはとがつた突起が対面して設けられている。

(四)  そこで、本件登録登録意匠と被告意匠とを対比する。

両意匠は、ともに把持部の両端に紐掛部を連設した包装用提手にかかるものであつて、全体は一体の肉薄で周縁が膨出していること、全体は下向凹状のほぼ弓状をなし、把持部の下側端縁に膨出した波状の指掛部があること、指掛部の膨出は把持部の膨出部よりも幅広であること、紐掛部はU字状に屈曲し、外側部が先端に向つて細くなつてゆくこと等において共通している。

しかしながら、把持部の上側端が本件登録意匠においては、孤状をなして紐掛部に続いているのに対し、被告意匠においては把持部の上側端はその中央部からある程度の長さにわたつて水平であり、水平端からゆるやかな曲線をなして紐掛部に続いている点、紐掛部が本件登録意匠ではその先端に外方斜め上方に向かう案内片と内方に斜め下方に向かう係止片が突出していて、イ字状あるいは逆イ字状をしており、また係止片と紐掛部屈曲部の他の内方端とは接触せず離れているのに対し、被告意匠では紐掛部の先端部には本件登録意匠におけるような形状をした案内片、係止片がなく、先端は外方斜めに上向いた鉤状をなしており、また屈曲部内方の係止片と他の内方端とが接触している点において被告意匠は看る者に本件登録意匠とは異なるとの印象を与えるものということができる。提手は、その用途上、紐掛部の意匠が最も人の主意を引きつけるものと認められるが、その部の意匠が本件登録意匠では前記のような形状がでいわば象の鼻とでも形容できるような形をしているのに対し、被告意匠では鶴の頭部をさかさにしたとでも形容できるような形状をしており、両意匠は看者をして類似しているとの印象を与えない。

右のとおりであるから、被告意匠は本件登録意匠の範囲に属しないものといわなければならない。従つてこれが属することを前提とする原告の請求は、その余の点の判断をするまでもなく失当である。

(五)  従つて、被告製品の製造販売が本件意匠権を侵害することを前提とした、原告の本件請求も理由がない。

三  よつて、原告の本件各請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 高林克巳 清永利亮 木原幹郎)

目録

全体を合成樹脂で肉薄に成型し、把持部(1)は上側端縁に沿つて断面ほぼ円孤状の膨出部(2)をめぐらし、下側端縁に沿つて上側端縁の膨出部(2)より幅広の指掛部(3)を両面に凸出させ膨出部(2)と指掛部(3)の間に形成している面には広告文字(4)を刻設し、更に把持部(1)の両端にはU字状の紐掛部(5)(5)′を連設して、その内周及び外周には前記の把持部(1)の上側端縁と同じように膨出部(2)をめぐらし、両紐持部(5)(5)′の外側部(6)(6)′は同一方向に向けてほんのわずかやや傾斜させるとともに先端部を細くし、その先端に外方に向かつて斜行する案内片(7)(7)′を附設し、この案内片′(7)(7)の内方下端はU字状紐掛部(5)(5)′内に突出させて係止片(8)(8)′を形成させたプラスチツク製提手。

意匠図面

実用新案公報――昭四一―一五七〇九

(公告昭四一、七、二二)

プラスチツク提手

実願  昭三九―四五一三

出願日 昭三九、一、二五

考案者 出願人に同じ

出願人 宮城照雄

東京都中央区日本橋人形町三の六

代理人 弁理士 本多輝雄

図面の簡単な説明

図面は本考案の実施例を示すものであつて、第一図は正面図、第二図は平面図、第三図は第一図に於けるA―A線断面図、第四図は使用状態を示す斜視図である。

考案の詳細な説明

本考案はデパート、一般商店等で売渡す商品の包装物を携帯する提手に係り、従来この種の提手としては細長い木製の筒内に針金を挿通し針金の両端を屈曲して紐懸用の鉤を形成したものが多く用いられていたが、製作上手間が掛りコスト高になると共に体裁も良くなるサービス品として適当でなかつた。又プラスチツク製品も見られるが紐懸部が針金の様に自在に屈曲しないから掛紐に引懸けるのに手間取り迅速を要する販売に際して甚だ煩らわしい等の欠点があつた。

本考案はこれらの諸欠点を除去し、簡易迅速に掛紐に引懸け得ると共に大きな荷重に耐えることができ、又体裁を良くして宣伝用にも好適な提手を極めて安価に提供しようとするものであつて、次に図面につき本考案実施の一態様を説明する。

全体を合成樹脂で薄肉に成型するものであつて1は把持部でありその上側端に沿つて断面略円孤状の膨出部2を繞らし、下側端に沿つて稍広幅の指掛部3を両面に突出させ、膨出部2と指掛部3間は第三図に示す如く膨出部二側を指掛部三側より僅か薄肉にして刻設せる広告文字4を一層見易いようにした。

又5、5は把持部1の両端に連設したU字状の紐掛部にしてその内周及び外周には前記把持部1の上側端と同じように膨出部2を繞らし、両紐掛部5、5の外側6、6を同一側方に向つて僅か折曲げて稍傾斜aせしめた。又紐掛部の外側6端部を細くし、紐掛部の先端外方に斜上方に向つて案内片7、7を突設して、掛紐を紐掛部5内に導入し易くすると共に紐掛部先端内方には斜下方に向つて係止片8、8を夫々突設して引掛けられた掛紐が濫りに離脱しないようにした。

上記構成からなる本考案に於ては両紐掛部の外側を同一側方に僅か折曲げて稍傾斜せしめ且つ紐掛部先端外方に斜上方に向つて案内片を突設したから、第四図に示す如く提手を斜めにして案内片の先を掛紐に当て把持部を矢印方向に引くのみで片手で簡易迅速に掛紐を紐掛部内に引掛けることができ、従来のように掛紐を持上げ乍ら紐掛部の片方宛押込む手間を必要とせず、又一度引掛けられると係止片を突設したから濫りに離脱する惧れがない。更に把持部の上側端及び紐掛部の内局と外局に膨出部を繞らし、把持部下側端に沿つて適宣幅の指掛部を突設したことにより著しく補強されるから全体を薄肉に形成しても丈夫であつて大きな荷重にもよく耐え得る。又把持部上側端の膨出部は断面略円孤状であるため把持部に刻設した広告文字を観取する妨げにならないと共に下側端に沿つて設けた指掛部と相俟つて大変把持し易い利点も有する。尚外観上の体裁も頗る良好である。

実用新案登録請求の範囲

把持部の両端に屈曲せる紐掛部を連設したプラスチツク提手に於て、全体を薄肉にし把持部下側端に沿つて適宜幅の指掛部を突設し、把持部の上側端及び膨掛部の内周と外周に沿つて断面略円孤状の膨出部を設けると共に両紐掛部の外側を同一側方に僅か折曲げて稍傾斜せしめ且つ紐掛部の外側端部を細くして紐掛部の先端外方に斜め上方に向つて案内片を、又紐掛部の先端内方に斜め下方に向つて係止片を夫々突設したことを特徴とするプラスチツク提手。

第一図

第二図

第三図

第四図

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